ビジャレアルに学ぶ7つの人材教育術
著者:佐伯夕利子 現Jリーグ常任理事
出版社:小学館新書
発売日:2021年2月6日
ページ数:190ページ
スペインの久保建英も所属したビジャレアル。その育成組織で活躍した日本人女性指導者の著作です。
コーチなのに教えないとは?選手の人格形成を目指す指導方法はとても学びになります!
人に対するこれらの考え方は、仕事での人間関係、私生活でも活用すべき考え方と感じます。
結論「教えないスキル」とは?
「指導者は、選手の学びの機会を創出するファシリテーター(潤滑由的存在)に過ぎない」
日本では「指導者が主、子どもは従うもの」という考え方が定着しており、思考が進化していません。
例えば監督が「もっと速く走って攻めるんだ!」「守備は下がりすぎるんじゃない!」などと試合中に選手に声を掛けることは自然なことのような気がします。
ただこのような監督と選手の関係であると、選手は自らが頭で考えることが無くなってきます。
言われたことを行動するだけになってしまいます。
「選手が自分で考えて動けるようになる」
教えないスキルとは、それを達成するために「教える」ことなく指導者は選手のサポートに徹するんです。
そんなことができるのでしょうか…?その軌跡がこの書籍にはとても興味深く記載されています。
君たちはどんな選手を育てたいの?
ビジャレアルの指導者(コーチ陣)への意識改革を行うためメソッドダイレクターが就任することになりました。そして最初にコーチ陣へ言われたのはこのような事でした。
「君たちはどんな選手を育てたいの?」 コーチ陣たちは、少し驚いた様子です。
なぜならコーチ陣はこのような内容を言われると思ってたんです。
「ビジャレアルはチーム強化のためにトップチームのプレースタイルに倣って4-4-2のスタイルにチームを統一します」
このような戦略的なことでは無く、「君たちはどんな選手を育てたいの?」と投げかけられたことに驚いたんです。
メソッドダイレクターの話は続きます。
「結局誰かが『はい、こうこう、こうしますよ』ってみんなに指示を出すことで、何が得られるんですか?」
「そうではなく、あなたがどんな選手を育てたいのか?どんな組織にしたいのか?どんなチームにしたいのか?」
「コーチ陣たちで自らアイデアを出し合って決めてこそ意味があるんじゃないか?」
メソッドダイレクターからそう言われた指導者たちは、その内容を深く考えるようになりました。
その後は、メソッドダイレクターがいないところでコーチ陣達だけでディスカッションするようになりました。
メソッドダイレクターが答えを教えるのではなく、自分たちで考え導き出すことが大切なんです。
そして答えを監督や指導者の誰かが持っている訳ではない、とも言われていました。
自分たちの指導を振り返る
指導改革を進めて行く過程で、自分たちの指導方法を振り返るためマイクとカメラを身につけて撮影することになりました。
そうすると自分たちが振るまってきた指導方法や発言などなど、様々なことが見えてきます。支配的な発言、命令、指示、ダメだし…。
「右!」「狭いよね!」「シュート!」
目の前に起こることをただ声に発しているだけであるということにも気づきました。
「それって選手のためになってる?意味あるのかな?」
自分を俯瞰して見ることで、とても学びも気づくことも多いです。
その過程でいかに自分が選手にとって意味のある言葉を発言しているかを意識して自分の行動を取るようになりました。
問いを投げかける
監督が選手に「今なぜ右にボールを出したのかな?」
すると選手は身構えて「パスコースが消されてたから…」とまるで叱られたような表情になります。
これまでの関係で問いかけは否定と刷り込まれているから、このようになってしまうのです。
「違う違う、本当に君の意見を聞きたかったんだよ」と彼らの気持ちをほぐすことでコミュニケーションがとれていきます。
コミュニケーションができれば彼らは理論武装をせずに本音で答えてくれるようになります。
何を言ってもダメ出しをされる環境では、人は心のシャッターを下ろし何も意見を言わなくなります。
何を言っても、何をやっても、受け入れてもらえるという安心安全な環境でこそ、選手は成長できるのです。
指導者と選手の関係を対等にする
指導者は選手を支配するのではなく、選手をサポートすること。
指導者が答えを持っているのではなく間違えることもあるのです。
そして意見を自由にかわすには対等な関係が重要です。
指導者と選手という関係は、ヒエラルキーが生まれやすい。これをなくすことも重要です。
「教えないスキル」の核
手取り足取り教える代わりにやることは…
・選手が心地よく学べる環境を用意する
・学習効果を高める工夫をする
選手が学べる環境を作ることが育成術の生命線なんです。
考える癖をつけることを重きを置き、考える余白をつくってあげる。
選手が「学びたい」と自然に意欲がわくような環境を整備する。
そうすることで一方的に教えるのではなく、選手が自ら考え成長していくんです。
メンタルトレーナーの存在
10人のスポーツ心理の専門家メンタルコーチが指導者の改革をサポートしました。
そのメンタルトレーナーが心理学の視点で外からチームを見守りながらミーティングなどで指導者のサポートをしてくれます。
そのような人たちがマインドセットの手伝いをしてくれたからこそ改革が成し遂げられていったとのことです。
メンタルトレーナーは日本ではあまり重要性とされていないようですが、著者は非常に重要で間違いなく必要だと言っています。
まとめ
「教えないスキル」タイトルだけを見ると、どういうことだろうと思いますよね。
ションさんはこう考えます。
この書籍で言う「教える」ということは、指導者が相手に望んだ姿に一方的になるように仕向けること。
「教えない」スキルとは、選手が望む姿を達成するために指導者が選手のサポートすること。
この「教える」と「教えない」の間には、とても大きな違いがあります。
それは選手自らが望むことを一番に考えて選手に対応するのか、考えずに対応するのかです。
良かれと思ってアドバイスをしたところで相手が望んでないことであれば、それはただの迷惑ですね。
「相手がしたいと思っていることをできるよう助ける」まずは相手に寄り添って傾聴から始めることが重要なんです。
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